先日、愛知県で小牧隕石が話題となりました。
その前には、長良隕石が発見され、隕石フィーバーが起きそうですね。
そのような中、わたしは、隕石の鑑定をしていらっしゃる、川上紳一教授(岐阜聖徳学園大学)に教えを受けました。
そのときしていただいた話を、少しだけ紹介します。
そもそも隕石とは何か
隕石は、宇宙から地球に落ちてきたもの(固体物質)のひとつです。
ただし、大きさが1ミリメートル以上のものを「隕石」、1ミリメートル未満のものを「宇宙塵(うちゅうじん)」といって区別しています。
これまで、宇宙から地球に落ちてきた隕石の中で、一番大きいものは、「ホバ隕石」とよばれるものです。
このホバ隕石は ナミビアにある隕石で、1920年、一人の男性によって発見されました。
その重さが なんと、60トン!
大きさは、縦と横が約2.7m、厚さが約1mもあります。
これまで発見された隕石の中で、世界最大の隕石です。
1954年、アメリカの自然史博物館が、ホバ隕石を購入しようとしていました。
そのために、隕石を動かそうとしたのですが、重すぎたため、あきらめざるを得なかったほどです。
ホバ隕石は、今からおよそ8万年前に飛来したと考えられています。
地面に落下した当時は、大きなクレーターができたと想像されます。
しかし、ホバ隕石が発見されたときには、そうしたクレーターは確認されませんでした。
なぜなら、ホバ隕石は、埋まった状態で存在していたからです。
発見当時は、約66トンほどの重さがあったと言われますが、風化・浸食やサンプルの採取、破壊などによって、現在の重さになってしまいました。
ホバ隕石の成分は、鉄が約82.4%、ニッケルが約16.4%、そのほかにコバルトやクロムなどが含まれています。
こうした成分は、隕石によって違います。
隕石が落ちてくると地球はどうなるのか
ホバ隕石以上に大きな隕石が落ちてくると、地球はどうなると思いますか?
あなたの想像以上に、大きな変化が起きることは言うまでもありません。
さかのぼること約7000万年、まだ恐竜が陸上で生活していた頃、突然、空から大きな火の玉が落ちてきます。
その正体は、ひとつの山くらいの大きさにもなる小惑星だったと言われます。
そんな火の玉が、時速6万kmもの速さで地球に落ちてきたのです。
恐竜たちは必死で逃げ、直撃をまぬがれようとしたことでしょう。
しかし、研究者のひとりである、ジョアンナ・モーガン氏はこう言っています。
「もし、あなたが衝突地点から比較的に近い1000km以内にいた場合、即死するか、数秒以内に死んでしまうでしょう」
また、ほかの研究者、ガレス・コリンズ氏もこのように言っています。
「衝突の9秒後、火の玉を観察できる距離にいた者は、熱放射によって、あっという間に焼かれたことでしょう。
木や草は自然発火し、周辺にいるすべての生物は、一瞬にして全身にひどいやけどを負うのです。」
「火の後には、洪水がやって来きます。
小惑星が衝突したときの衝撃は、地形によって最大305mの大津波を引き起こすのです。
そして、続いて起こった地震は、少なくともマグニチュード10の地震だったのです。
これは、人類がかつて経験したことのないほど強大なものだったはずです。」
アメリカのコロラド州立大学の地震学者、リック・アスター氏はこのように言っています。
「これほどの規模の地震は、たとえて言うなら、過去160年間に世界で起きたすべての地震が同時に発生するようなものです。」
と。
以上のことからも、直接の落下が原因ではなく、その後に起きた二次被害がひどかったと考えられます。
もし、今、巨大な小惑星や隕石が地球に落下してきたら、わたしたち人間の多くは高温などによって、消滅してしまう可能性があるのです。
このように、たったひとつの大きな隕石によって、地球の環境は大きく変わってしまうのです。
どのような石が隕石なのか
上の写真は、川上教授の研究室に設置されていたパネルです。
このパネルの左下「磁石と引き合う?」にもあるように、多くの人は、磁石が石にくっつくかどうかで、隕石か否かを判断していることでしょう。
しかし、地球上には、磁器を帯びた石はいくらでも存在します。
磁石では、隕石かどうかを正確に見極めることはできないということです。
磁石で判断できないとなると、石の成分をわざわざ調べなければならないのか、と思われるでしょう。
しかし、そのようなことをしなくても、隕石かどうか見極める方法があります。
ポイントは、石の外見です。
外見だけで、ある程度は隕石かどうかが判断できます。
見極めるためのポイントは、次の3つです。
- 石の表面に焦げや、溶けて固まった部分が見られる
- まんまるではなく、ゴツゴツしている
- ざらざらしている部分がある(割れたときの断面に相当)
以上3つのポイントすべてに当てはまれば、隕石である可能性はグッと高まります。
ただ、隕石によっては、3.の断面が確認できない場合もあります。注意してくださいね。
では、一つずつくわしく見ていきましょう。
表面に焦げや、溶けた跡が見られる
隕石は、ほかの石とは違う何かを感じさせます。
理由は、人によって違うかもしれませんが、たいてい、黒光りした様子を見て、ほかの石とは違うと思うのです。
実は、隕石の成分にカルシウムが多く含まれていると、黒いテカリが強く見られます。
それこそ、隕石が大気圏に入ったとき、火の玉となり表面が焦げた証拠です。
まんまるではなく、ゴツゴツしている
まんまるの石は、隕石でないことのほうが多いです。
大気圏に入った後、割れてしまうことが多いからです。
溶けはしますが、ドロドロになるまで溶けるわけではありません。
石の形は保ったまま、表面だけが溶けるイメージです。
地表にたどり着くと、隕石の表面は固まり、ふつうの石にまぎれてしまうのです。
もちろん、地面にぶつかった衝撃で、小さな破片になってしまうこともあります。
ざらざらしている部分がある(割れたときの断面)
上の写真のように、黒光りした部分と、そうでない部分があると、隕石の可能性があります。
さらに、もっと言うならば、ざらざらしている面で、一部がうっすらと焼けている場合は、隕石である可能性がグンと高まります。
大気圏に入ってから割れて、そのあとしばらく高温下にさらされていたことにより、溶けやすい部分が溶け始めている様子なのです。
対して、下の写真のように、表面が黒っぽかったとしても、断面がざらざらしていない場合は、隕石とよべないのだそうです。
以上3つのほかにも、見極めるべきポイントはあります。
- 石の大きさに不つり合いな重さをしていること
(密度が大きいこと)隕石は、その成分から、とても密度が大きくなる傾向があります。
つまり、見た目よりも、「お、重い!」と感じるということです。
- 石の中央あたりに、いびつな穴が開いていること
隕石の中には、穴が開いたものもあります。
これは、隕石が飛んでいたときの作用によるものです。
大気圏に入って火の玉になりますが、このとき、高温の部分と大気に触れて冷めてしまう部分ができます。
高温の部分では隕石の成分が融け出し、穴が開くのです。
隕石の進行方向は、常に大気とぶつかることになるので、冷まされます。
そのため、丸みを帯びていきます。対して、進行方向の反対側は冷めにくく、隕石も融けていきます。
その融けた部分が流れ出て、穴が開くのです。
- 隕石が飛んでいたときの名残が見られること
隕石の中には、穴が開くまでにいたらない場合もあります。
上の隕石は、石のふちが手前側に流れて、固まった様子がみられます。
これは、隕石が飛んでいたとき、石の融けた一部が進行方向とは逆に移動した証です。
上の写真で言うと、この隕石の進行方向は、奥側ですね。
どのような隕石がお宝になりうるのか
隕石は、鉄を多く含むため、錆びやすいという性質があります。
そのため、雨風にさらされていると、早く風化して錆びてしまいます。
とは言っても、赤茶色になるまでに、1万年近くかかると言われます。
また、風化して赤茶色になった隕石は、ほとんど価値がないと言われます。
地表に落ちてきたばかりの隕石ほど風化しておらず、よりお宝になりうると言えますね。
さらに、隕石は、大きさや どこからやってきたかによっても価値が決まると言います。
もちろん、大きければ大きいほど値が張ります。
日本円にして、1g=4万円で取引される隕石もあるほどです。
火星から飛来した隕石も、値は高くつきます。
米粒サイズで1万円はくだらないほどだそうです。
ただし、残念なことに、ほとんどの隕石は、どこから来たか特定することはできないのが現状です。
地球に飛来する隕石は、そもそも、宇宙でどのようにして天体ができるか、わたしたちにヒントを与えてくれている存在なのです。
隕石ひとつひとつに歴史があり、それを読みとっていくのも、また面白いですね。
長良隕石は、どのようなものか
では、今回、宇宙から日本に飛来した長良隕石について見ていきましょう。
発見されたとき
2012年10月に岐阜県長良川ホテル周辺の私有地で発見されたものです。
大きさは直径15~20cmほどで、重さは6.5kgありました。
発見したのは、私有地で草刈りを任されていた光村さんです。
草刈りをするとき、大きな石は邪魔なので、どかして草刈りをしたそうです。
どかした石は、家に持ち帰り、処分しようとしたそうです。
しかし、この石に何かを感じ、家の中に運び入れたのです。
スゴいですよね。
まさかその石が隕石だなんて…
ちなみに、地面に落ちていたものを拾った場合、所有者がいなければ、拾った人のものになります。
これに対して、地面の中に埋まっていたものは、その土地の人のものになります。
今回の場合は、前者にあたるので、隕石を拾った光村さんがこの隕石の持ち主になります。
2018年6月までは、岐阜市科学館で展示されていました。
長良隕石に含まれる成分の特徴
ゲルマニウム(Ge)が多く含まれています。
一方、ニッケル(Ni)が含まれる量は少ないです。
隕石は、その成分から分類されることがあります。
長良隕石の場合、ⅠAB(イチ エービー)という分類になります。
長良隕石の2号が発見された
こうして長良隕石が有名になり、2018年3月1日に発表されてから、もうひとつの長良隕石が発見されたのです。
きっかけは、長良隕石1号の大々的な発表でした。
その発表を聞いた田中さんは、
「自分が持っている石も、この長良隕石にそっくりだ!」
ということで、自分が拾ってきた石を調べてもらったのです。
そうして、長良隕石2号の発見にいたりました。
長良隕石2号は、9.7kgの重さがあります。
この方も、光村さんと同じように、偶然拾ってきた石が隕石だったのです。
長良隕石の目撃者がいた
驚きの事実を知りました。
なんと、長良隕石が飛んでいくのを、岐阜県内に住んでいらっしゃる御年90歳の女性(2018年現在)が、火の玉を見たというのです。
その証言によると、昭和19年(1944年)まで さかのぼります。
その当時、若い人は戦争にかり出され、その女性の身内のかたも戦争に出向くことになったそうです。
そのとき、空を見ると、火の玉が 長良雄総の方向に飛んでいったというのです。
この目撃情報は、どうやら正しいようです。
長良隕石1号が発見された場所と、2号が発見された場所を直線で結ぶと、その先に「長良雄総」が地図に記されているではありませんか!
長良隕石が、今から74年前に飛来し、途中で分離したと考えられます。
一つは長良川ホテル周辺、もう一つはその手前で地表に落ちてきたものとされています。
その当時は田畑が広がり、だだっ広い土地だったのですが、今では住宅地となってしまっています。
もしかしたら、あなたの家の下にも、このときの隕石の破片が眠っているかもしれませんね。
隕石がひきつけるもの
光村さんや田中さんがそうであったように、隕石には、人を惹きつける何かがあります。
黒光りしている独特な見た目なのか、帯びている磁器の力なのかは、分かりません。
わたしも、川上先生のお話を聞いて、何かに吸い込まれていく気持ちでした。
良い意味で、わたしも隕石にとり付かれたようです。笑
この話をうかがったとき、川上先生にひとつ質問させていただきました。
「隕石にある魅力は何ですか?」
そう尋ねたところ、
「隕石は、隕石を引きつけてくれる」
とおっしゃいました。
確かに、川上先生は、お宝鑑定団の鑑定役に抜てきされる前から、化石集めをされていると うかがいました。
とくに、化石の産地として有名なモロッコに何度も足を運ばれ、現地でさまざまな化石を購入されているそうです。
そして、いつしか、化石を集めていた初めの頃に比べて、形がきれいな「隕石」を探すようになったそうです。
隕石探しを夢中でしているうちに、自然と隕石の価値が分かるようになり、今では、こうして隕石かどうかを見極める依頼が数多く入ってくるのだそうです。
そうして今では、数多くの隕石が川上先生のもとに集まってきています。
隕石を集めるようになったからこそ、さまざまな隕石が自分のもとに集まるようになり、隕石は隕石を引きつけるとおっしゃられたのでしょう。
さすがは川上先生です。
隕石が人を惹きつけ、さらには隕石までも引きつけ、こうして幸せを感じる人がいる・・・。
隕石は、地球に大きな変化をもたらす怖いものなのに、こうした幸せを感じるのも、何か不思議な感じがします。
もしかしたら、隕石には、そのほかにも秘められた力があるかもしれません。
何と言っても、わたしたちのほとんどが未だ訪れたことのない、未知なる宇宙からやってくる石なのですから。
宇宙パワーを感じるために、あなたも隕石のひとつやふたつ、持ってみてはいかがでしょうか。
最後に
今回は、岐阜聖徳学園大学 川上紳一教授に教えを受け、このような記事を書かせていただきました。
分かりやすくご説明いただき、誠にありがとうございました。
ぜひ、わたしもモロッコを訪れ、自分の好きな隕石を探してみます。